文化財詳細
前賢故実
文化財区分:
書籍・典籍・古文書、絵画・書
時代区分:
江戸時代、江戸後期、明治時代、明治前期
西暦:
幕末~明治元(1868)年
指定区分:
指定・登録なし
収蔵場所:
八戸クリニック街かどミュージアム
作者:
菊地容斎
明治10年代に入ると、急激な欧化政策に対する反動から国粋主義が台頭し、明治半ば以降の国家意識の高まりと共に、日本の歴史や古代神話などを題材とする歴史画が多数描かれた。近代的な価値観のもと有職故実(ゆうそくこじつ)を重視する歴史画において、洋画・日本画問わずバイブルとなったのが菊池容斎(きくちようさい)(1788-1878)の『前賢故実(ぜんけんこじつ)』である。これは、神武天皇朝から南北朝時代に至る日本の歴史上の人物571名を、肖像と漢文の略伝で紹介した全10巻20冊からなる版本で、天保14(1843)年に2巻4冊が刊行された後中断し、明治元年に全巻刊行されたと考えられている。
菊池容斎は、狩野派から学びながらも円山四条派や土佐派、浮世絵や西洋画なども吸収すると共に写生を重視し、容斎門下からは松本楓湖(まつもとふうこ)や渡辺省亭(わたなべせいてい)、孫弟子の鈴木華邨(すずきかそん)など欧米のジャポニスム〔日本美術ブーム〕でも高く評価された画家の他、その系譜からは速水御舟(はやみぎょしゅう)・今村紫紅(いまむらしこう)・小林古径(こばやしこけい)・前田青邨(まえだせいそん)など、後の近代日本画家の巨匠達を輩出している。
また、『前賢故実』は歌川国芳の弟子の月岡芳年(つきおかよしとし)がいち早く取り入れ歴史画に先見性をみせており、同世代以降の浮世絵師に受け継がれ、芝居がかった誇張表現からの脱却にもつながった。
解説執筆者 : 八戸クリニック街かどミュージアム 小倉 学
推薦文献 : 練馬区立美術館 1999 図録『没後120年 菊池容斎と明治の美術』