八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club
寄稿・論壇 「女子力」の誇り
千葉満
千葉学園高等学校は、一昨年(2010年)お陰様でで創立百周年を迎えることができました。本当に有難いことで、一私学がこのような歴史を刻むことができたのは、地域社会の皆様のご理解とご支援があったからであり、皆様にただ感謝するばかりであります。十一月の記念式典の後、何かできないかと散々悩みました。これまでは記念講演などしていただきましたが、なかなかいい企画が浮かびません。そんな時、教員と生徒から「女子力」について発表させてほしいとの申し出がありました。千葉学園高等学校は明治四十三年、 千葉クラが創設した八戸女塾に始まります。千葉クラは、その創設のいきさつの中に次のようなことを記しています。
「主義理想トシテハ徒ラニ新シキ二走ル今日ノ世風ヲ矯正シ吾国固有ノ女ラシサノ養成ヲ以テ主眼トシ、 寒村僻地ノ女子若シクハ無産階級ノ女子二モ普ク教育ヲ施スヲ以テ方針トシ随ツテ入学者ノ過半数ハ漁村寒地ノ子女ナリ」
生徒たちはこの中の「女ラシサ」 に着目し、それを「女子力」としてとらえてみたいと考えたのでした。 式典の後、学校の歴史と共に映像を使って発表しお客様から好評いただいたので、ご一読いただきたいと思いここに紹介させていただきます。
学校の創立には、その時々の時代背景や世相が反映されます。特に、 私立学校は、創立者を中心とした先人達の熱い思いが、建学の精神となり校調となって受け継がれてきました。千葉学園高等学校は「信愛」の校訓のもと「くらしに生きる教育」、 「心豊かな人間を育てる教育」を目標として百年の歴史を刻んできました。卒業生は約一万八千名を数える伝統ある女子高校として、良き家庭人・職業人を輩出してきたのです。 生活文化科・調理科・総合ビジネス科・看護科・看護専攻科を有する専門高校として、県南で唯一の女子教育を貫いています。
本校が育んできた「女子教育」とは何だったのか。百周年の節目の年に、本校の原点を振り返ることが、 新たな歴史を築いていく私たちに課せられた使命だと考え、私たちは創立当時に遡って調べてみました。
創立者の千葉クラは創立のいきさつに「・・吾国固有ノ女ラシサノ養成ヲ以テ主眼トシ・・」と記しています。百年前、クラが着目した「女ラシサ」とは何だったのか、それこそが「女子教育」を読み解くキーワードになると、私たちは考えました。 そこで、生徒会が中心となって、日本全国の私立女子高校にアンケートを実施しました。加えて、独自の調査を踏まえ各校の特色を調査することで、現代の「女子教育」の姿を探ることにしたのです。
全国には現在私立高校は1,365枚あり、そのうち女子高校は298校あります。青森県内17の私立高校のうち8校が創立時に女子高校でしたが、現在は3枚で、県南では本枚1校のみとなっています。
各私立高校の「建学の精神(学校を創立する時の創立者の強い意志)」 には、それぞれの時代や社会のニーズを含む創立者の願いが込められています。アンケートの結果から明確な分類をすることは困難ですが、かつて時代や社会が女性に求めていたのは「品格と教養」「家庭人(良妻賢母)としての資質」「職業婦人としての資質」の三つに分けることができます。また、校訓を表現するために、 「愛・和・信・誠・徳・知」などの文字が多く使われています。ここから分かることは、時代がどんなに変化しても人として忘れてならないもの、守らなければならないものは不変であるということです。つまり、「愛」に代表されるように「こころ」 を育む文字が盛り込まれている学校が圧倒的に多いのです。文明や文化は急速に進歩しますが、「誰もが人と人との関わりの中で生きている」 ということは永遠に変わらないということが実感できます。
では、男女共学ではなく、あえて女子高を伝統としてきた学校の共通点は何でしょうか?それは「女らしさ」を追求してきたことです。「女らしさ」、つまり「女性の特性」として第一に頭に浮かぶ言葉は何でしょうか?「優しさ・温かさ・和やかさ。 笑顔・美しさ・母性・芯の強さ・・・」 いろいろな言葉が挙がってきますが、 これらを総称して私たちは、「女子力」と呼ぶことにしたのです。
女子教育に力に注いでいる学校に学ぶ現代の女子高生は、女子であることに喜びや誇りを感じています。 アンケートの結果でも、「女子高で自慢できるものは?」という質問に対し、「リーダーシップがとれる。 活躍の場がたくさんある。自主性を高められる」という回答が上位を占めました。この結果は、女子高は 「女子の潜在的な能力が発揮される機会が多い」ということを意味していると考えられます。また、「女子高で満足しているか?」という質問に対しては、七割以上が「満足している」と答えています。理由は、「女性同士で気が楽。自由で楽しい。団結力が強い」というものが多く、女子高には「自由な空気のなかで、女子の特性を伸びのびと発揮できる」 という長所があると読み取りました。
100年前の「女らしさ」という表現には、「女だからこうあらねばならない」という女性を縛るマイナスイメージがありました。しかし、 これを「女子力」と表現すると、「女だからこれができる」という女性の可能性を見出すプラスの力になるのです。「女らしさ」を「女子力」と考えることで、女子高の未来が拓けてくるのです。
現在、千葉学園で学ぶ生徒たちは、 人として「生きる力」を身につけ、 優しさ温かさといった「女子力」を 磨きながら、「社会で役に立つ」ことを目標に学校生活を送っています。 100年前に千葉クラが理想として掲げた精神は、100年後の未来である現代に通用する先見的なことだったといえましょう。 (千葉学園高等学校校長)