八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club
会員文芸・論壇 再び九戸政実に挑戦中
柾谷伸夫
十年以上前になるだろうか、元所属していた劇団やませで上演した『九戸政実』を、高校生向きに書き直し『約定の城』と改題して、毎日放課後遅くまで稽古に励んでいる。
八戸聖ウルスラ学院高等学校が男女共学になって五年目。今年、男子の数が百人を超えた。女子高時代の演劇部の台本執筆は苦しかった。基本的に女子に男性を演じさせるのは好まない。ために所謂普通の舞台はお父さんや兄弟、恋人は出ないことになる。筋の展開に苦しんだ。そのため、男女どちらでもよい動物の世界やミュージカルの演目が多くなった。
それが、共学ということで、四年前からようやく男子が登場する台本を書けるようになった。ウルスラ演劇部の舞台に初めて男子が立った。歴史的光景だった。それだけで感動ものだ。老婆と若い女の二人舞台『霧笛哭く街にて~基獅子幻想~』で、老婆の息子役だった。二年目は、戦時中十八歳で亡くなった夭折の歌人佐々木章村を主人公にした『新しき生命を受けし我はいま 天主のみ子となりにけるかも』。章村役の一年生石橋磨君の体当たり演技が印象に残っている。その他、神父役等男子諸君の出番があった。三年目の昨年は、野の天文学者前原寅吉を主人公にした『我が内なるラピュータ』。寅吉と妻ナカにぴったりの二年生部員木村寛太君・相馬美玖さんに演じてもらった。大人の我々と違い、若々しい高校生の演技は魅力的だった。先の石橋君には東京の天文学者。一年生の菅沼朋也君に服部時計店々員、田村周興君に弟子の木村を演じてもらった。男子中心の舞台となった。スタッフにも数人男子がついてくれた。
そして今年は九戸政実の『約定の城』。日本史の授業では、この九戸政実や安藤昌益・稗三合一揆とその背景等々、この地方に関わる事件・人物を投げ込み教材として利用している。
今年入った一年生の顔をみて、今年は政実ができそうだと思った。石橋君は大学受験で、受験勉強に専念しなければならないということで、泣く泣く出演を断念した。もう一つ残念だったのは、入部した一年生男子二人のうち一人がバスケット部へ転部していったことだ。それやこれやがあり、出演できそうな生徒の顔を思い浮かべながらの台本改編となった。途中、運動部を引退した三年男子や卓球部の二年男子への協力を要請し、本人たちも出演意欲を示してくれたが、試合が公演日と重なったりで、うまく調整がとれず断念した。ただし、蒲生氏郷役には剣道部を引退した三年男子にねらいを定めて交渉し、快諾してもらった。あとの配役は現有部員で賄うことになった。
九戸政実は一年の日影倫久君。七月中旬から稽古が始まり、十月中旬を過ぎた今、一年生とは思えぬ凄みある政実を演じてくれている。弟の実親は、男子部員不足もあるが、これは女子でもOKだと思い、同じく一年の中谷綾香さんにやってもらうことにした。これがなかなかいい。彼女は野辺地からの列車通学生。英語科でもあり、きつい通学・勉強の中での稽古となった。毎日野辺地駅着二十時半だという。頭が下がる。相馬さんも受験ということで、出演させない予定だったが、本人の強い要望があり、出演場面・時間を短くして政実の妻ヒサ役となった。戦闘場面が多く、テンポが速い緊張感が続く中で、政実とヒサの場はしっとりしたものにした。三年の木村君は太鼓集団への入団希望で受験ということではないので、難役薩天和尚と七戸家国役、田村君は南部信直と浅野長政の家臣役についてもらった。この他、進行役の先生と生徒に部長橋本佳織さんと鳴海潮莉さん・椛本睦さんがついた。
ウルスラ演劇部の面白いところはスタッフが多い(充実している?)ことだ。演出・助演出・照明二名・音響三名・舞台二名・舞台監督・舞監助手の計十一名。舞台担当の女子は、捕らわれの身となった政実を縛る亀甲結びを研究してきて披露してくれた。
本当は演劇部全員で九戸城址を訪ね、現地調査をしたかったが、私も副顧問も土日の時間がとれず、まだ実施していない。ところが、部員の何人かは、家族に頼み城址を訪れているという。二回行った生徒も。
もしかすれば、所謂高校生らしい演劇の範疇からはずれているかもしれない。それでいいと思っている。いろんなジャンルに挑戦し、高校生らしい観点で演じて欲しい。演劇だけでなく、この地方の歴史にも愛着を持って欲しいからだ。
今、十月三十一日青森市民ホールでの県大会へ向けて猛稽古中である。九月の三八・上北地区大会とはだいぶ違ってきている。怖いのはインフルエンザ。稽古終了後、うがい手洗いを声高に叫んでいる。なんとか無事に…!(十月二十三日記)