八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club

この本・この資料『三浦哲郎論』―血脈の迷路

安藤始著

 芥川賞となった「忍ぶ川」を著者は「忍ぶ川の志乃という名前がいい。その名前を聞いただけでも銘仙のよく似合う、りりしく清楚、けなげで可愛らしい女性のイメージが浮かぶ」(要約)と奥野健男が評した一節を引用、三浦文学『忍ぶ川』の成功をまず分析。

 血脈への苦悶が三浦文学の大きな幹。「血」とは、自らの血脈であり、 「地」とは、自らの出生地である八戸周辺の郷里を指していた。これが生涯に及ぶ三浦文学の表現の源―と著者はいう。

 主要作品を読み、三浦さん自身が自作を語った『雪の音 雪の香り』 ~自作への旅~(新潮文庫刊。デーリー東北の連載が原典)からポイントを引き込み、筆者の思いを表しながら筆致は徐々に深みを増す。久しく本格的に三浦文学と取り組んだ一冊で、著者は岡山県出身の文芸評論家。おうふう・刊。270㌻、2500円+消費税。