八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club

八戸八景考(その一)

三浦福壽

 小井川潤次郎の「三戸郡誌・歌謡編」の中に、石橋次常の「八戸八景」の和歌が収録されている。

 この八景の和歌が法霊社(現龗神社・八戸市内丸)に献額されたのが延享五年(1748)のこと。 与謝蕪村が、南画と俳画修行のために、奥羽各地を放浪していたころのことである。

 次常は、当時八戸藩の豪商西町屋に関わる人物であろうと推測される。次常が詠んだ八戸八景は、中国の「瀟湘八景図」の画題をもとに、八戸藩城下周辺の地名や寺社名をそれにあてはめ、自然現象の中に織り込んでの作品。

 八景の見所として認識されていた八つの画題は、やがて和歌へと転じて、その表現領域はさらに広がった。

 絵画で表現しえなかった八つの風光美を言の葉に託して詠じることができたのである。

 八つの心象風景を、俳句や和歌の短詩形に置き換えることによって、内なる景趣を楽しむというカタチができあがったといえようか。

 そういう風流の兆しの中に次常は生きていた。

 ゲーム的感覚で受容された「八景」という風は、「八戸」という土に着地したのである。

 これが「八戸八景」である。語呂が良い末広がり的イメージと喜ばしい響きを放っている。

 次常は躍如したにちがいない。献額した当時の晴れがましくも得意満面の姿を彷彿させてくれる。

 さて、次常の八戸八景。紙面の都合上今回はその景趣のみを再録してみた。

小中野落雁(らくがん) 菖蒲田夜雨(よさめ) 種市岳秋月(しゅうげつ) 小田平暮雪(ぼせつ) 来迎寺晩鐘(ばんしょう) 地蔵堂夕照(せきしょう) 蕪ヶ島帰帆(きはん) 沼館村晴嵐(せいらん)

となっている。 (八戸ペンクラブ会員)