八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club

特別寄稿 蕪島のウミネコを守るということ

杉山武

 昨年、火災に遭った「蕪島」についてデーリー東北新聞社こだま欄へ「ウミネコの生息地を守ろう」という投書をし、掲載された。神社の再建案が発表になる中、私の考える「蕪島の主人公であるウミネコを守りたい」意識とは大きな隔たりを感じたことが投稿の動機だった。このことをもう少し知っていただきたいと思う。

・火災があってはならない蕪島という場所。

・二階建て案は、空を舞うウミネコの防げ。

・遺跡の存在で島の歴史・文化が分かるはず。

・ウミネコのエサ問題と観光客は成育の妨げ。

 2月の新聞での原因究明の概要は、 八戸消防本部「・・・・・・調べを尽くしたが、原因の特定には至らなかった。」 八戸署「付近に火気、不審人物の情報はなし。施錠された建物の高い位置が中から燃えていた状況から放火等の事件性は低い・・・・・・。」とのこと。 原因について語られなかったが、神社再建に向けて報道の矢面に立つ神社責任者に違和感を覚えるのは私だけだろうか。

 2月の再建プランには、規模は以前と同様だが、二階建て等のことも考えているとあった。観光客向けの施設や避難場所かとも思われるが大空で羽ばたくウミネコにとって、生活範囲が狭くなることで、大きな問題である。

 この蕪島を狩猟・漁撈・採集の場としてきた縄文人の遺跡の存在から、 八千年ほど前の縄文時代早期には繁殖地となっていたことが想定される。 神社が建てられたのは十三世紀頃からのこと。鮫の人たちにとってウミネコは、豊漁を運ぶ弁財天の使いだと考えられていた。その蕪島では安永九年(一七八〇)にも火災で社殿が焼失している。

 蕪島は大正期の架橋と昭和十八年に戦争のため対岸と陸続きになる以外は、ずっと海中に浮かぶ島であった。 だから往来には舟を必要とした。

 蕪島の名前の意味はアイヌ語地名の通りである。蕪島のカブはカモメを表すカピュウ、島は岩場を指すシュマである。従ってカピュウ・シュマ(蕪島) は、「ウミネコの住む岩場」という意味だ。蕪島は、縄文人にとって大切な生活の場であり、同時に蕪島とウミネコは神(カムイ)として大切にされてきた。縄文時代の言語は北海道と東北地方は同じ言語で結ばれていたようだ。鮫・蕪島・種差・大久喜等この辺りの古い地名は、アイヌ語で理解できる。蕪島の場を舞台に築き上げられた遺跡は、信仰の対象である蕪嶋神社と重なる。今後、制約された時間と場所、予算の中での緊急的な試掘では、「遺跡の調査は終了したが、分かることは少なかった」という結果につながらないか心配である。 しかも、同じ場所に神社が建つことは、半永久的に遺跡が蓋をされてしまうということだ。

 「蕪島のウミネコ」は、子育ての様子等を我々が間近で観察できる貴重な宝である。

 しかし、いかに大切なものであっても島が陸続きになってからは、侵入し巣を荒らす動物や、観光客等らがウミネコの大きなストレスになっている。 鳥類は環境の変化や天敵の増加により一斉に繁殖地を放棄することが報告されているし、ウミネコにとって例外ではないと専門家は「警告」している。

 併せて、今のウミネコ親子の食料事情を八戸の人々はどれほど理解しているのだろうか。三十年ほど前までは、 イワシ・鯖などがよくとれ、八戸周辺の海には、漁をする舟がたくさんいた。水揚げされた魚を運ぶトラックからこぼれた魚がウミネコの餌にもなっていた。 そのような光景は、昔の出来事でしかない。

 今は漁をする舟が減り、湾内には防波堤が魚の侵入を妨げてもいる。 悪天候の日、市場の屋根などで餌待ちをするウミネコの姿は哀れにも見える。食料不足なのだ。鮫でウミネコの様子を観察している方に聞くと、親鳥が餌をあげても咀嚼できず死んでいく雛がいる。餌の絶対量不足から親が食料を確保しても、子に合わないことも多いという。さらにダニ問題など基本的な把握と対応がなければ、ウミネコのコロニー維持は難しい。このような状態では数万羽といわれるウミネコがいなくなることも予測されよう。

 いろんな小学校で神社再建への募金活動をしたりしているが、寄付をする子供には、「ウミネコを守りたい」という思いがある。

 また、ウミネコ生息地の将来を見通した保護活動がなぜ話題にはならないのだろうか。エサ事情を踏まえて生息地を守るということは、観光より先んじなければならないはず。蕪島は、ウミネコの世界最大の繁殖地であり、人類の貴重な財産である。 それを持つ八戸市民の考え方が問われているとも言える。

 最後に、漁民の守り神の神社が再建され、たくさんの観光客が蕪島に来るということを想像するよりも、大昔からこの地にたくさんのウミネコが飛来して繁殖する姿をそっと見守る姿勢こそが、未来につながる八戸の遺産ではないだろうか。

 それは「八戸ふるさとづくり」の根本にほかならない。

(八戸市在住)