八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club
会員文芸欄『あなたへ』について
小渡康朗
「あなたのいない日々が、慌ただしくすぎていきます。お元気ですか。私は変わりなく毎日を過ごしています。森は青くなり、風はいっそう潤ってきています。………」 このような書き出しで始まる小説。ペンクラブの皆さんはすでにお読みになっただろう小説の書き出しを使わせていただいたが、この小説とは二〇〇五年一月→十五歳で第六回小学館文庫小説賞を受賞した『あなたへ』である。著者は河崎愛美(かわさき・まなみ)さん。一九八九年(平成元年)二月生まれのまだ十代のお嬢さん作家である。すでに、十四歳のときに地元紙の小説賞に応募し、新入賞に選ばれているということからみても、この新進作家をご存知の読者の方々も多いと思われる。
この小説は四〇〇字詰め原稿用紙で約三〇〇枚ほど。少女が愛する少年にあてた手紙の形式でつづられた、出会いから突然の別れまでの心の動きを描いた恋愛小説というか純愛小説というか。ひたすら「あなた」への思いを綴った、いつしか読者をその小説の世界に引き込んでいく不思議な魅力を持った小説である。当時のある評は“少女から今は亡き少年に宛てた手紙という形式で綴られた愛と絶望と再生の物語はどこまでもまっすぐに人の心に届く。生きることの意味を懸命に問いながら、必死で「あなた」への思いを突きつめていく主人公の姿に、読む者の心はいつしかひとりの少女と同じ世界に引き込まれてゆく。“と述べている。
小学館文庫小説賞受賞当時の反響は大きく、たとえば、朝日新聞の社会面やNHK「クローズアップ現代」では「史上最年少作家デビュー」と取り上げられている。確かに一読してみると、さらに成長し、より人生経験を重ねると、表現にも厚さを増すような箇所は読み取れるが、ともあれ天性のとぎすまされた感性のようなものが輝いていることは確かだろう。この小説賞の受賞時の彼女の言葉を引用すると『誰かに気持ちを伝えたいと思ったとき、小説という形式がぴったりでした。心の深いところに届く小説を、直球勝負で書いていきたい。でも、自分の人生を犠牲にしてまで書くものではないので、次の小説はまた書きたいものが出てきたらとりかかります』と述べている。
河崎愛美さんは当然ペンネームである。八戸市生まれで現在は旧種市町に在住。八戸高専に在学中の学生作家であるゆえ、我々は彼女を静かに見守りながらその成長を期待しよ