八戸ペンクラブ
The Hachinohe P.E.N. Club
寄稿・論壇 島守地区の戦争遺跡(その1)
古里淳
八戸市島守地区・館地区,是川地区には、太平洋戦争末期に築造されたコンクリート製の構築物が多数現存している。これは、昭和20 (一九四五)年、米軍上陸に備えた本土決戦用に帝国陸軍が構築したものである。この構築物に関して、少々紹介したい。
昭和16(一九四一)年12月に始まった太平洋戦争は、昭和19(一九四四) 年には米軍にサイパン島、グアム島などを占領され、戦況はいよいよ憂慮する事態になった。防衛総司令部は本土沿岸の防衛強化を真剣に検討し始めた。
本土沿岸築城実施要綱
昭和19年7月20日、大本営は総長指示をもって、防衛総司令官に対して築城実施を指示し、「本土沿岸築城実施要綱」を示した。
大陸指第二千八十号別冊 本土沿岸築城実施要綱
昭和十九年七月二十日 大本營陸軍部
本土沿岸要城ニ於ケル築城実施二関シテハ差当り左二拠ルモノトス
一 要則
1 差当り実施スル施設ハ本土沿岸要域ニ於ケル骨幹築城及之二連繫スル道路等トシ情勢ノ推移二伴ヒ逐次野戦陣地ヲ以テ補備増強ス
2 築城計画ノ策定二方リテハ本土内縦深二互リ施設スヘキ築城地带及複廓陣地等概定シ之等トノ間二綜合一貫性アラシムルコトニ関シ特二留意ス先ス
3 航空基地設定ノ為ノ所要兵力ハ築城実施ノ為ノ使用兵力二優先スルモノトス
二 築城実施要領
1 工事着手二先タチ予メ偵察、 計画其他ノ事前準備ヲ周密ナラシム
2 先ツ主トシテ敵水上艦艇等ノ奇襲攻撃及一部ノ奇襲上陸等二対シ太平洋正面ノ本土主要港湾及要地ヲ掩護スル如ク速二臨時砲台等ヲ新設スルト共二敵ノ真面目ナル上陸ヲ顧慮シ伊豆七島ノ築城ヲ実施ス 右八九月末迄二之ヲ概成シ爾後逐次補備増強ス
3 又情勢ノ変転二伴フ敵ノ本土上陸企図二対処シ予期セラルル主上陸正面ニ於テ沿岸防禦ノ骨幹陣地(一部ノ反撃乃至攻勢拠点ヲ含ム)ヲ施設ス
重点八九十九里濱、鹿島灘正面及八戸附近トス
右ハ十月末迄二概成シ年末迄二完成ス
三 築城実施上特二留意スへキ件左ノ如シ
1 勉メテ所在物料ノ利用ヲ図ル
2 常二熾烈ナル敵ノ砲爆撃下ノ戦闘トナルヘキヲ予期シ特二戦カノ温存二著意スルト共二対戦車組織ヲ重視ス
3 沿岸ニ於ケル上陸防禦拠点二在リテハ舟艇秘匿位置ヲ準備ス
4 陣地ハ当初ヨリ之カ秘匿及軍機保護二留意ス
これによると、
・本土沿岸要域に骨幹築城を成し、 これに連絡する道路を設ける。 情勢の推移で、野戦陣地を設ける。
・9月末迄に、伊豆七島に築城する。
・10月末迄に、九十九里浜、鹿島灘、八戸付近に築城する。
・熾烈な敵の砲爆に耐え、戦力の温存ができるような施設とする。 特に対戦車用の施設とする。
・建設にあたっては、秘匿すること。 となっている。島守地区の要塞は、 これに沿った施設であると思われる。
(青森県民俗の会会員)