八戸に移住してみて
これからの映画文化を盛り上げる会@青森 WEBライター 上平美紀さん
「今日からつつましやかな暮らしがスタートするのか」
これは移住初日の夜に、私が独りつぶやいた言葉です。
実母は弘前生まれで、愛知県へ嫁ぎました。そして2016年、今度は娘の私が愛知県から八戸へ嫁ぐことに。いわゆる「逆輸入」状態です。子供時代は夏休みの度に弘前へ滞在していたこともあり、まったく知らぬ土地ではないし、とそれほどの感慨もなく移住を了承しました。周りのほうが「よくそんな遠い場所に引っ越す気になったね!?」と驚いていたものです。
愛知県にいたときは、休みの度にライブ鑑賞、飲み会、映画館ハシゴ等で余暇をエンジョイしていました。趣味の合う大勢の友人に囲まれ、享楽の毎日。大量に提供される都会のカルチャーは、追いかけようと思っても享受しきれず、正直なところ疲れて果てていたのかもしれません。冒頭の独りごとは、疲れた自分に言い聞かせていたのでしょう。
が、しかし。
当初の予想とは裏腹に、私は今でも元気に遊び歩いています。行く場所がないなんて、とんでもない誤解でした。魅力的な飲み屋が数えきれないほどあるのです。酒席を通して、いつの間にか友人も増えてきました。
八戸はのんべぇの街
八戸はのんべぇの天国である、そう断言できます。中心街にはとにかく飲み屋が多く、個性的な店ばかり。店同士・客同士の顔ぶれが把握できるので、横の繋がりをとても大切にしています。
彼らは「愛おしいおせっかい」を焼いてくれることがあります。そんなとき寄る辺ない私は、街への帰属意識を強く感じるのです。
小さな個人店が連なる横丁、いわゆる“のれん街”は、全国的に減少の一途をたどっています。しかし八戸はいまだ
・たぬき小路
・五番街
・ロー丁れんさ街
・長横町れんさ街
・ハーモニカ横丁
・八戸昭和通り
・みろく横丁
・花小路
の8つもの横丁を有し、そのどれもが密集していて徒歩で回遊可能。厳しい冬の寒さの中で、よしもう一軒!ができるところが気に入っています。
私が好きな映画・音楽・読書と密接なコンセプトを持つ店とも、多く出会ってきました。
例えば十六日町のブックバー、AND BOOKS(八戸市十六日町48−3 本多ビル2F)では、飲みながら手に取った本を実際購入することができます。最近では週末の度にオルタナティブなカルチャーイベントが開催されており、他の常連とコミュニケーションを取れる機会が増えてきました。
私自身、こちらで定例の映画イベントを開催しています。それぞれの興味分野がミックスされ、新たなカルチャーの形が現在進行形で生まれ続けている、大変稀有な場所です。
その他に、東北のミュージシャンを招き積極的にライブを催すバーあり。
大人向けの絵本トークイベントを催すカフェあり。 DJイベントに出張して寿司を握ってくれる割烹あり。
地方には若者向けのおもしろい場所が存在しないのだろうという先入観を、八戸は良い意味で裏切り続けてくれます。集まる人の顔ぶれが限られているからこそ、ひとりひとりがカルチャーの担い手なのです。
「街」を構成するものとは
移住から6年。
私の生活を彩ってくれたのは常に、人との出会いでした。街は「何があるか」ではなく「どんな人が集うか」で創られるのだと感じています。だとすれば、八戸は東北十指に入る人口を有しており、もっともっと新しくなる可能性を秘めているに違いありません。
私がこの街に受け入れてもらったように、これからは新しいカルチャーと、誰かの居場所を創りだせたらいいな。そんな小さな夢を胸に抱きながら、八戸で7回目の春を迎えようとしています。
2023年2月掲載