音楽のまち八戸
八戸ジュニア・オーケストラ会長 大黒裕明さん
八戸には音楽好きの方がとてもたくさんいます。中でもよく目につくのが昭和生まれと思しき人たちで、自分たちが青春の頃人気のあった歌手やグループを真似て、精一杯ポテンシャルを上げてコピー演奏しています。本当になり切っているのだから感心します。景気が良くてジャパンアズナンバーワンなどと世界から称賛されていた時期に流行ったものが多く、それへの郷愁があるのかも知れません。ロック、歌謡曲、演歌、グループサウンズ、フォークソング、ニューミュージックと、それ以外にもあるでしょうか、あらゆる分野のコピーがまちの中に蔓延っています。ノスタルジーを追う傾向はクラシックにもあり、古いレコードを何回も聴いたのでしょうね、例えばカラヤンのベルリンフィル風に自分たちも演奏したいと練習に励んでいる方の数は数えきれません。
私も音楽好きの一人で、楽器は弾けませんがかつてはコーラスにのめり込み、ダークダックスやボニージャックス果てはミッチミラーや赤軍を聴きに行ったり、ある時はグリークラブや聖歌隊に在籍したり、ベートーベンの二百年祭の頃はプロの合唱団に混じってフィデリオの囚人の合唱に出たこともありました。そのほかにもまちにはシャンソン、ボサノバなどを楽しんでいるグループがありますし、カラオケはもちろん、日本舞踊やいろんな国のダンスのグループ、謡や笛などに傾倒している人もいて、どの人も心から楽しんでいるようです。欲を言えば、コピーや伝統を追いかけるだけでなく自分たちのオリジナルな歌や曲を作り、全国や世界に発信するようになればもっと良いですね。
クラシック分野では八戸にはジュニアオーケストラという団体があり、二十歳未満の団員が中心になって毎年定期演奏会をしています。コロナ禍で途切れることもありましたが何とか三十回目に到達しました。「子供たちに音楽に触れる機会を確保してやりたい、演奏会に出た後の充実感を味合わせてやりたい」と、昔ある篤志家の方が情熱を注いで結成にこぎつけたと聞いています。考え方に私も賛同して協力していたら、その方がお亡くなりになった後を引き継いで欲しいと要請されて受けることになってしまいました。私の場合は演奏会が終わった後の子供たちの笑顔を見るのが楽しくて、むしろ私自身が癒されていると言った方が適切でしょう。団員の中にはその後プロになった人もいます。もちろんその道へ進んだ人には将来の活躍と成功を期待し激励していますが、でも私は、「音楽で生計を立てられるように努力するのはもちろん意義のあることだけれどとても大変だ。だからほかの道で生活の資を得られるようにしてそのうちの一部を音楽につぎ込むのは利口な生き方で、むしろそのほうが本物の音楽愛好家だと思う。挫折したなどと決して恥じることではない」と現役の団員たちには話しています。
音楽は、感性で楽しむものです。基礎が無くても途中からでも問題はありません。歴史や理論などの知識は、それを身に付けたらもっと楽しいと思う人が学べば良いのです。鑑賞や演奏だけでなく踊りやリラクゼーションの手段として、また時には創作や批評など、楽しみ方はいろいろです。今以上にたくさんの人が音楽を愛してくれるように期待しています。
2023年2月掲載