八戸市の民俗芸能について
八戸市教育委員会 社会教育課
1.青森県の民俗芸能の様相
民俗芸能とは、祭礼や行事で、主に地域住民によって演じられる歌や舞踊、演劇などのことで、全国各地で伝承されています。本州最北の青森県にも様々な民俗芸能が伝わってきましたが、旧盛岡・八戸藩領(南部地方)と旧津軽藩領(津軽地方)とでは、現在行われている民俗芸能が異なります。
南部地方では山伏系神楽やえんぶり、駒踊り、鶏舞(ケイバイ)、大神楽、虎舞、ナニャドヤラ、餅つき踊りなどが盛んに行われていますが、津軽地方では獅子踊りや荒馬、虫送り、登山囃子などが伝承されています。
2.八戸市の民俗芸能の概要
八戸市内では、令和5年現在、八戸三社大祭の山車組を含め約90の民俗芸能団体が活動しています。えんぶりや山伏系神楽、大神楽、虎舞、駒踊り、盆踊(ナニャドヤラやオシマコなど)、沖揚げ音頭などのほか、山車組では木遣り音頭やお囃子が演じられ、青森県有数の団体数と種類を誇ります。
民俗芸能は歴史や文化を物語る文化的所産であるだけでなく、八戸においては、信仰や娯楽、観光に大きく寄与し、さらに準備や練習を通じて世代間の交流を促し、地域の結束力を高める役割を果たしてきました。
①えんぶり
えんぶりは年の初めに豊作を祈願して、農事を模して演じる田植え踊りです。馬の頭をかたどったといわれる烏帽子を着けた太夫の摺り方(太夫の踊りを”摺る”と呼ぶ)によって、「ながえんぶり」と「どうさいえんぶり」に分けられます。摺りの合間には、松の舞や恵比寿舞、エンコエンコ、苗取り、豊年すだれ、大黒舞など多彩な祝福芸を演じます。様々な時代に流行した芸能が取り込まれているのも特徴の一つです。
現在は2月17~20日に開催される「八戸えんぶり(豊年祭)」で、市内外から参集したえんぶり組が長者山新羅神社に参拝し、旧城下町を巡行します。巡行中、三日町や十三日町、六日町でえんぶり組が一斉に上演する「一斉摺り」は圧巻です。このほか市庁前広場や更上閣などで公演が行われます。
現在市内では約30組が活動し、大半が国の重要無形民俗文化財に指定されています。多くのえんぶり組は、郊外農村部の古くからの集落単位で伝承されてきました。しかし現在では、都市化により集落周辺の新興住宅地の住民も入会していますし、同僚や友人など様々な縁で、集落外の人が入会することもあります。
②山伏系神楽
山伏系神楽は、権現様と呼ばれる獅子頭を捧げ持ちながら寺社や家々を訪れ、家内安全などの願いに応じて権現舞などを演じます。元々神楽は、中世から近世にかけて修験・山伏が布教の手段で伝えたものですが、現在では民間の団体によって伝承されており、鮫神楽連中や龗神社法霊神楽保存会、白銀四頭権現神楽保存会など11団体が活動しています。
八戸の山伏系神楽の特徴として、権現舞による様々な祈祷が挙げられます。死者供養の墓獅子、身体の邪気払いには身固め(権現様が体の悪い所を噛む)、家内安全や火防では家固めをします。
権現舞のほか、三番叟などの式舞や山の神などの神舞、さらに武士舞、曲技舞、女舞、組舞など多くの演目を演じます。
3.八戸の民俗芸能と地域社会
民俗芸能団体が活動するには、地域社会から芸能が受容され、物心両面で支援される必要があります。八戸市内で多数の団体が活動している背景には、盛んに門付けを行っていることが要因に挙げられるでしょう。
神楽は伝統的に決まった範囲で門付けをします。白銀四頭権現神楽保存会の場合、元旦から4,5日間、白銀地区の三嶋神社より東側で門付けをします。新しく引っ越してきた家にも意味や作法を説明して新規開拓をします。
一方、えんぶり組の門付けの範囲は厳密に決まっていません。地元で門付けをする組もあれば、中心街など商店が多い場所を重点的に廻る組、組員の職場や取引先、依頼を受けた福祉施設や事業所など広範囲を廻る組など、限られた時間内で効率的に稼ぐため、各組は戦略的に門付けを行います。
神楽とえんぶりのどちらにおいても、門付けは、活動資金を得る手段としてだけでなく、門付けを受けた人から、直接感謝の気持ちや喜びを伝えられることで、やりがいや充実感を得る機会になっているといえます。
4.民俗芸能を観る機会
多くの民俗芸能が観られる機会は、8月1日と3日の八戸三社大祭のお通り・お還りです。三神社の行列に山伏系神楽や大神楽、駒踊り、虎舞が参加します。ほかに12月に八戸市公会堂で開催する民俗芸能の夕べ、2月第一日曜日に南郷文化ホールで開催される南郷地区郷土芸能発表会などがあります。
2023年2月掲載